生前に相続資産を把握し整理しておくことは親本人にとっても子どもたちにとっても安心できる重要なステップです。親の資産状況は、多くの場合、子どもたちにとってブラックボックス化してしまっています。特に現在、同居世帯で親子一緒に暮らしている場合であっても、「お財布」は別であることが一般的です。子どもたちは親の年金などの収入をある程度把握することができますが、それ以外の財政状況は大いに不透明です。

年金は老後の大事な収入源であり、その収入は納付期間や納めた保険料によって大きく変動します。厚生年金と国民年金という二階建てのシステムは、会社員や公務員が対象です。一方、自営業者やフリーランサーの場合は国民年金のみです。厚生年金は給与額によって保険料が異なり、それによって支給額も変動します。さらに、年金以外にも給与、不動産収入、株式配当金などの収入がある方もいるでしょう。そして、その預貯金などの蓄えが、子には把握できない「ブラックボックス化」していることは珍しくありません。

それらの蓄えをスムーズに引き継ぐためには、資産の「整理」が不可欠です。不動産のように大きな資産の把握は比較的容易ですが、難しく感じるのが多種多様な金融資産や貴金属類の把握です。若い頃に加入した保険や転勤先で開いた銀行口座、投資目的で購入した株、バブル期に購入した宝飾品や着物など、多くのものが資産として積み重なります。これらを把握するのは手間がかかりますが、遺された家族がスムーズに対処できるよう、それらの資産をきちんと整理しておくことが必要です。

すなわち、親の財産は子どもたちにとって不透明であり、その不透明さを解消するためには親自身が事前に資産を把握し、整理しておくことが求められます。それにより、予期せぬ事態が生じたときでも家族が適切に対応できるようになります。これは親が子どもに対してできる責任とも言えるでしょう。
また、資産の把握や整理は一度行ったら終わりではなく、定期的に見直しを行う必要があります。資産の状況は経済や社会情勢の変化、年齢と健康状態の変化などにより、常に変動します。例えば、新たに不動産を購入したり、株式投資を始めたり、新たな預貯金をしたりすると、資産状況は変化します。また、健康状態が悪化した場合、医療費や介護費用の負担が増え、それが資産状況に影響を及ぼすこともあります。

これらの情報をまとめて把握し、適切に整理することで、自分だけでなく家族全体の安心につながります。それは自身の将来に対する予測を明確にし、子どもたちが親の財政状況を理解しやすくするためにも重要です。その結果、もし何かが起きた場合にも家族全体が一緒に解決策を見つけやすくなり、一人ひとりの負担を軽減できます。

また、資産の整理には専門的な知識が必要な場合もあります。税務や法律、金融商品の知識など、自分一人では把握しきれない事柄があるかもしれません。その場合は、専門家に相談することをお勧めします。専門家はあなたの資産状況を理解し、最適なアドバイスを提供してくれます。その結果、資産の管理がより効率的でスムーズになり、家族全体の安心につながります。

結論として、親の資産の把握と整理は、安心した老後生活のため、そして家族が未来に向けてより明確に計画を立てるためには必須のステップです。適切な資産管理とは、自分だけのことではなく、家族全体の幸せを考え、それを実現するための重要なプロセスなのです。