遺言書とは、被相続人(遺言者)が、主に自己の財産について、自分の最終意思を死後に残したものです。相続分、遺産分割方法、及び、遺言執行者の指定や、遺贈について定めることができると民法で定められています。関連する事項として、祭祀承継者の指定や特別受益の持ち戻し免除や生命保険金の受取人の指定なども定めることができます。

遺言は、15歳以上で通常人としての正常な判断力・理解力・表現力を備え、遺言内容について十分な理解力を有していれば、誰でも遺すことができるとされています。
取引の場合よりも低い程度の能力で足りるとされているため、成年被後見人などの制限能力者であっても遺言を遺すことができます。ただ、成年被後見人が事理弁識能力を失った後、一時的に回復している時に遺言をするには、医師2人以上の立会が必要です。
認知症などで判断力が低下した場合は、遺言の有効性が否定される可能性があります。

遺言書の種類

民法は、普通方式の遺言(3種類)と特別方式の遺言(4種類)を定めています。

普通方式 特別方式
自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言 死亡危急者遺言伝染病隔離者遺言在船者遺言船舶遭難者遺言

この中で、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つが、一般的に行われている遺言です。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言書全てが遺言者本人の手書きの遺言書です。遺言書の本文、日付、氏名を手書きして、押印すれば、遺言書として有効に成立します。
例外的に、遺産目録を添付する場合には、添付用の遺産目録の方は、手書きではなく、パソコン入力や代書やコピーも許されます。押印は、実印である必要はなく、認め印や指印も許されるとされています。亡くなった後に、相続人が家庭裁判所で検認を受ける必要があります。

メリット
誰にも知られず簡単に遺言書を作成できる。
費用がかからない。

デメリット
方式不備で無効とされる危険性がある。
偽造・変造される危険性がある。
→遺言書保管制度の導入によって偽造・変造の対策が可能となりました。

遺言書保管制度は、遺言書を法務局で保管してもらう制度です。相続開始後、相続人は、法務局に行って遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けることができます。相続人の一人が遺言書を閲覧したり、証明書の交付を受けた時は、他の相続人全員に通知が届きます。この制度を利用することで、検認手続きも不要となります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、公証センターで公証人が遺言者から聞き取った内容に基づいて遺言書を作成する方法です。公証人とは、裁判官や検察官などを長く務めた法律事務の経験があり、公募の中から法務大臣が任命した準国家公務員です。公証人に支払う作成手数料は、遺言の対象となる遺産の価額によって異なりますが、概ね2万~5万円程度です。

メリット
内容的に適正な遺言ができる。
無効などの主張を防ぐことができる。
破棄・隠匿のおそれがない。
相続人にとって探す手間が省ける。
家庭裁判所の検認手続きが不要となる。

デメリット
お金がかかる。
証人を二人呼ぶ必要がある。
予約を取って公証センターに行かないと作成できない。

遺言書は、判断力の低下や、方式の不備を理由に無効とされることがあります。遺言者は、いつでも自由に遺言を撤回したり、変更することができます。その場合、新たな自筆証書遺言や公正証書遺言を作成することが必要です。
複数の遺言書が遺され、内容が矛盾する場合には、日付が最も新しい遺言書が有効であるとされます。公正証書遺言作成後に、自筆証書遺言を作ることで、遺言の撤回や変更を行うことも当然に可能です。

家庭裁判所による遺言書の検認

遺言の保管者は、相続開始を知った後に遅滞なく、相続開始地の家庭裁判所に遺言書検認の申立をしなければならないとされています。申立を受けた家庭裁判所は、検認期日を指定して、申立人及び相続人に通知します。検認期日に申立人を含む相続人が立ち会って、裁判官が遺言の方式を確認します。内容の確認までは行いません。
確認調査後、裁判所書記官が検認調書を作成します。短時間で終了する手続きです。検認を受けないと罰則を受ける可能性がありますが、検認を受けなくても遺言書が有効であることには変わりありません。また、内容の確認は行われないため、検認後の遺言書の効力を争うのは自由です。

遺言執行者

遺言者は、遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者は、遺言の内容を適正に実行しなければなりません。他の相続人は、遺言の執行を妨げる行為をすることはできません。
遺言執行者は、相続登記や預金の解約を単独で行うことができます。