通常、被相続人は、遺産を、どの法定相続人にどのように配分するかを遺言書で自由に決めることができます。この本来尊重されるべき被相続人の意思によっても奪うことができない相続分の割合を遺留分と言います。相続人間の不公平の是正や生活の保障を目的とした制度です。

裁判例92 最小判平成13年11月22日 (民集55巻6号1033号)

「遺留分制度は,被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。 民法は,被相続人の財産処分の自由を尊重して,遺留分を侵害する遺言について、いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上, これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを,専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる (1031条,1043条)。」

遺留分権利者

遺留分権利者は,被相続人の配偶者, 子, 直系尊属です。
被相続人が男性で妻子を残して亡くなった場合、妻子以外の者に全額遺贈する内容の遺言書を残していたとしても、妻と子に遺留分が認められます。
子が無い夫婦で夫が若いうちに亡くなった場合で両親が存命であって、妻や両親以外の者に全額遺贈する内容の遺言を残していたとしても、妻と両親に遺留分が認められます。
一方で、 兄弟姉妹には遺留分はありません (民1042条)。
そのため、子が無く妻も両親もいない男性が亡くなった場合、兄弟姉妹以外の者に全額遺贈する内容の遺言を残していた場合、兄弟姉妹は遺留分権を行使することができません。遺言書のとおりに遺贈が実現されます。

遺留分の割合

① 直系尊属のみが相続人である場合→相続財産の価額の3分の1(民1042条1項1号)。
② それ以外の場合(子や孫のみの場合,子や配偶者の場合,直系尊属と配偶者の場合、 配偶者のみの場合)→相続財産の価額の2分の1(民1042条1項2号)。

遺留分権利者 総体的遺留分 法定相続分 具体的遺留分割合
1/2 × 1/2 1/4
B・C・D 1/2 × 1/2×1/3 1/12

遺留分の性質

遺留分は、侵害されたと主張する相続人が、侵害した他の相続人又は第三者に権利行使をすることで初めて権利として認められます。
相続開始前の遺留分の権利行使は認められておらず、相続の開始と権利行使によって具体的な権利として具体化することになります。
遺留分権利者は,相続開始前に、家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することができます (民1049条1項)。 無制限に放棄を認めると,被相続人や他の共同相続人らの威圧によって放棄の強要が行われるおそれがあるため、家庭裁判所の許可を要するものとしています。

民法改正の影響

民法改正によって、遺留分侵害の是正方法が遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権へと変更となりました。
遺留分減殺請求権の行使が、遺留分を侵害する遺言を無効にして、現物返還を求めることを原則として、金銭賠償は例外とするものだったのに対し、遺留分侵害額請求権は、遺留分侵害額に相当する金銭の賠償を原則とするものとなっています。
現物返還では目的物が共有関係となり、紛争状態がそのまま残ってしまったり、事業用資産の共有が事業承継を困難にする可能性があることなどから、金銭賠償を原則とする形に変更となりました。

遺留分侵害額請求権の消滅時効

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは, 時効により消滅してしまいます(民1048条前段)。
この「知った時」とは、相続の開始と遺留分を侵害する贈与又は遺贈のあったことを知っただけでなく,贈与や遺贈が遺留分額を侵害することを知ることが必要です。あくまで、贈与や遺贈によって自分の遺留分が侵害されていることを知っているのに権利を行使しない場合に、時効が進行するということになります。
さらに、遺留分を侵害する贈与や遺贈の存在を知らなかったとしても、遺留分侵害額請求権は,相続開始時から10年を経過すれば消滅してしまいます(除斥期間民1048条後段)。