共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受け、生前に贈与を受けた者がいた場合、相続に際して、この相続人が他の相続人と同じ相続分を受けると不公平な結果となってしまいます。
そのため、共同相続人間の公平をはかることを目的として、特別な受益を相続分の前渡しとみて、計算上贈与を相続財産に持ち戻して相続分を算定することにしています。これを特別受益といいます。
たとえば、遺産が9000万円あり、相続人が被相続人の子4人であった場合で、一人の相続人が被相続人から1000万円の生前贈与を受けていた場合、この1000万円の生前贈与が特別受益と認められることで、遺産は1億円であると考えることになります。それを2500万円ずつに分割し、生前贈与を受けた相続人は、生前贈与分1000万円を差し引いて相続の場面では1500万円の支払いのみを受けるというのが特別受益の考え方です。
1000万円の生前贈与が特別受益であると認められなければ、4人とも2250万円を受け取る結果となっていたことからすれば、特別受益が認められるかどうかは、遺産分割の結論に大きく影響を与えるものであることが分かります。
生前贈与が相続財産の前渡しと見られる贈与である場合に、特別受益として持ち戻しが認められます。法定されている生前贈与の種類としては、以下のものがあります。
①婚姻又は養子縁組のための贈与
②学資
③その他生計の資本としての贈与
婚姻に際しての持参金や支度金は特別受益に当たることが多いと思われますが、結納金や挙式費用は当たらないと考えることがほとんどです。
学資は、高等教育を受けるための授業料等をいいますが、私立の医科薬科等の大学の入学金や授業料のように特別に多額なものでない限り、特別受益と認められることは難しいといえます。
相続人全員に同程度の贈与がある場合には、持戻し免除の意思表示があったものとして、特別受益として考慮しないということがあります。
生計の資本としての贈与としては、居住用不動産の取得費用や営業資金など生計の基礎として役立つよう贈与をいいます。
短期間で費消されてしまうような少額な援助は特別受益に当たりませんが、少額な贈与が比較的長期間にわたって多数回実施され、その総額が多額となった場合、一定の金額を基準として、下回る部分は持ち戻し免除を認めますが、上回る場合には特別受益として持ち戻しの対象となると考えることができます。事情ごとの個別具体的な判断が必要となります。
死亡保険金は遺産分割の対象とはなりませんが、相続開始時の遺産に比べて生命保険金の総額が大きいという不公平な場合に、特別受益として持ち戻しを認める場合もあります。
持ち戻すべき金額は、被相続人が負担した保険料の全保険料額に相当する保険金額と考えるのが一般的です。
死亡退職金や遺族年金は、生活保障の趣旨から、持ち戻しの対象とするべきではないとされています。
特別受益としての持ち戻しの対象財産の価値の評価は、相続開始時の価値とされています。